必読、川崎泰雅の軌跡と告白。【中編】 ~リコタイ番記者、最後のインタビュー~
「チームのため」の盗塁
次戦の明治戦では守備陣の乱れが出て優勝の可能性は潰えたが、すぐさま2位あるいは3位にチームは目標を切り替えられたという。「創部以来一回もAクラスに入っていないということを先輩たちから聞いていたので、自分たちが最強の代だって示したかったんです」。 圧倒的な強さでリーグ制覇を果たした慶應に唯一の黒星をつけたのも立教だった。
結局3位でリーグ戦を終え、大学野球最後の舞台となるZETT杯では準決勝で因縁の早稲田と再び相まみえた。息詰まる投手戦の中で1点ビハインドの6回、右安打で出塁するとすぐさま2つの盗塁を決め、4番・水町和葵(福井商)のタイムリーで同点のホームを踏んだ。
負けたら終わりの一発勝負は延長戦に突入し、1点を勝ち越された10回裏2死二、三塁の場面で川崎はネクストバッターズサークルにいた。「あの時はけっこうニュートラルな気持ちでした。もしまわってきて打てなかったらやべえなとか、最後の打席になるんだろうな、とか…」
南智樹が投じた一球は打席に入っていた廣瀬竜馬(小山台)のバットを真っ二つにへし折り、力のない打球がファーストの正面に転がった。
「実はあのバット、前日に買ってあの試合で出したんですよ。そのバットが折れるってことは、これが終わりの合図なのかなって思って受け入れられました」。
川崎はこの日も3盗塁。最後まで塁上で自分らしさを貫いた。「もう盗塁王も関係ないので、(目指していたのは)とにかくチームの優勝です。ただ満足感としてはそれこそ高校の夏大に近いものがありましたね。終わった後の気持ちとしては『とにかく楽しかったな』って」。
こうして圧倒的なスピードで相手守備陣の脅威となり続けたピンストライプの背番号7は、静かにユニフォームを脱いだ。
(後編へ続く)