慶應・高辻陽平(国立) 優勝決める一打は「投手失格」の苦労人 | 慶應×早稲田 2回戦 試合後談話

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◇慶應6-0早稲田
10日・サーティフォー保土ヶ谷球場

 

勝てば優勝の大一番。ヒーローになったのは昨季まで投手を務めていた急造外野手だった。 

 

 

3回表、慶應の攻撃。松下周平(本郷)の適時打と飯塚大生(桐朋)の押し出し四球で2点を先制し、満塁のチャンスが続くところで打席には7番・高辻が打席に入った。

甲子園出場の歴史もある名門都立・国立高校から投手として入部した3年生。ルーキーイヤーから登板機会こそ得ていたものの、桐光学園や慶應義塾高校といった強豪私立からやってきた精鋭投手たちが揃うリコタイでは絶対的な立場を築くことはできなかった。
しかし広角に打てる非凡な打撃センスを買われ、昨季から徐々に外野手としての出番を増やす。「実は高校の時も2年までピッチャーで、3年で野手に専念しました」という二度目のコンバートだった。外野でも熾烈な定位置争いがあったが、「守備ではチームに貢献できないのでひたすら打つことで勝負しようと思ってました」と打席で猛烈なアピールを続けた。この日の一戦も開幕戦で早稲田相手にサヨナラ打を放ちヒーローになった長橋一徹(洛星)をベンチに座らせての先発出場だった。

実はこの男、チームきっての天然キャラ。遅刻、忘れ物の常習犯であり、お茶目な一面でチームメイトから可愛がられている。
満塁機で訪れた3回表の打席を振り返りながら、「自分が天然かどうかはさておき(笑)、意外に打席では緊張するタイプなんです」と語る。「ただあの場面は前の打席で一本出ていたので割と落ち着いていた気がします」と振り返るように、四球の後の初球を狙い澄ましてジャストミート。ライト線へ運ばれた鋭いライナーは、慶應のリードを4点に広げる決定的な一打となった。
苦手なはずの守備でも、頭上を襲った2つの大飛球を好捕しチームを救った。自らの攻守にわたる活躍でチームを優勝に導き、「やっぱり優勝してみると最高です」と満足げに語った高辻。試合後に行われた祝勝会の席では、じゃがバターのホイル焼きを焼かずに食べるという相変わらずの天然ぶりだった。

 

文・小池颯