必読、川崎泰雅の軌跡と告白。【後編】 ~リコタイ番記者、最後のインタビュー~
エゴイスティックな決心を持った走者とは
野球における盗塁というプレイはほとんどが独りの力によるものであり、成功も失敗も走者の自己責任だ。
もしこの記事を読んでいるあなたが野球の試合で塁に出たとき、あなたはそれを自分の好きなような走塁をするチャンスと捉えるか、それともチームの得点のチャンスと捉えるだろうか。もちろんあなたはチームの勝利にあたって大事な走者であり、自分のしたい走塁ではなくチームが勝利に近づくような走塁を求められることは間違いない。しかし、味方の想いを背負い切った上で自分のためにプレーができる、そういうエゴイスティックな決心を持ったランナーが必ず良い走塁をするのもまた事実。まさに川崎はその決心を持ったランナーなのだ。
リコタイでの3年間を終えて川崎の心の中に残ったもの、それは他者への感謝やリスペクトだった。派手な見た目やプレイスタイルからすれば、少し意外に感じる人も多いかもしれない。実際に「川崎は自分が盗塁をするために野球をやっている」という見方をされることもあった。ただ、それらは仲間からの信頼をすべて背負った上でのプレイだったのである。失敗の責任を自らで引き受け、チームのために次の塁を目指してスタートを切る。これがどんなに難しいことかは、盗塁を試みたことがある人なら全員が分かるものだろう。
インタビューの最後にリコタイ引退の率直な感想を訊くと、川崎は「本当にチームメイトに恵まれました」と照れ臭そうに答えた。 立教ナイン全員もまた、チームのために塁上を駆け回り続けた背番号7に対して同じことを思っているはずだ。
(後編おわり)